白木のきれいなカウンターのある、小料理屋。 各地の酒と小料理が旨い。 カウンターに手を置いただけで酒が呑みたくなる。 こんな店はありそうでなかなかない。 繁華街の裏のビルの地下。 紺の長い暖簾越しに格子の引き戸を開けると、左にカギがたのカウンター、右にテーブル席が三つ。手頃な店だ。居心地良い。 私たちは、いつもカウンターに。 そっちにすわってもいい? ウン? いいよ。 彼女はいつも私の右側に座るのだが。私が左側に座られるのを嫌がるものだから、いままで左側に座ったことがなかったのだが。 どう? 案の定、友美はいたずらっぽい顔をして、私の顔をのぞきこむ。 うむ。 ふふふ、オーライ、オーライ、ね。 友美はご機嫌な様子で、いつものように、右手の指をこきざみに動かしてオーライ、オーライの仕種をした。この仕種がどういうわけかおかしい。ひとつひとつの指が妙に器用にうごいて、失笑してしまう。 あらっ、友さん、珍しいわねスカートで 私も気がつかないわけではなかったが。敢えて言及しなかった。その辺が、時に、鈍感!と言われる所以でもある。 女将さんはいつものように、和服をきちんと着こなして愛想がいい。着物に気を使ってることは、素人の私にも見て取れる。同じ着物を着たのを見たことがない。 大将はいかにも人のよさそうで、無口だ。典型的な対照的夫婦であろうか。 女将さんは、なんでも受け入れる鷹揚さがあるが、なんでも聞き流す拘りのなさがある。 同じような店で、夫婦共々愛想よく如才ない店を知っているが、なぜか私は足が向かない。人柄で酒を呑ませる、といったところか? 賑やかさを嫌うわけではないが、酒の味が分からなくなる。これは趣味の問題だから、とやかく言う余地はない。 塩辛をおろしの上に乗せた薄切りキュウリ添え。鳥皮をキンピラにまぶしたアスパラ添え。 ボンチャイナ風な小鉢が清々しい。 酒のつまみにもってこいの一品である。 ねえ、私のこと好き? えっ! 私はふいをつかれて、一瞬絶句した。 辺りの澱んだ空気が、緊張したようだった。 次のページ → |