『宿命』
2011/04/22
猫の方が、犬より嫉妬深いと、 以前も、このコラムに書いたが、逆に猫の方が、甘え上手とも言えようか。 一般に、動物の方が人間よりも、宿命を認識して行動する事が多い。 もう40年も前の事だが、我が家の愛犬ピートが、 身体の毛が全て抜けて、裸同然になってしまった事があった。 顔の毛も、あんなにソフトだったのに、剛毛のようになってしまったのである。 ハムを与えても、匂いを嗅ぐだけで、食べようとせず、元気がないのである。 切ない目つきで、私に静かに甘えるのである。 結局1時間近くピートのそばにいたと思う。 私に切ない目つきで、何かを訴えるようでもあった。 2日後、犬小屋で、ピートは冷たくなっていたのである。 あのピートの切ない目つきは、最期の別れだったのか。 こちらは30年前の話である。 子猫の小春は、生まれつきの肝硬変だった。 埼玉の友人から、 「近親相姦で生まれた猫が、5匹とも持病を患って、 その内の1匹に引き取ってくれないか」と、いうことであった。 早々に、埼玉の友人をたずねた。 5匹共、患っているとは思えない程、元気でやんちゃで可愛かった。 私が、5匹の猫の前にひざまづくと、その内の1匹が、私のそばに歩み寄ってきた。 それが小春だ。 小春は、私の膝に前脚を乗せると、私を見上げるように見つめた。 何かを訴えているようでもあった。 子猫が小さな生きる知恵を使う事は、何とも切ないものだ。 こうして、小春は、我が家の一員になったのである。 1年近く小春は、そのやんちゃ振りと旺盛な食欲を発揮していた。 定められた宿命を謳歌するように。 それでも、毎週動物病院に行っていると言って、薬と検査をしていた。 ある日、肝硬変の数値が、通常の1000倍近くまで上がってしまった。 入院を余儀なくされた。 毎日、小春を見舞いに行った。 見舞いに行くと、小春は、ゲージに仁王立ちになり私を迎えた。 入院して5日目のある日、私が見舞いに行っても、ゲージの奥に潜んで、 私の目を見ているばかりであった。 そのうちに小春は、私に背を向けて丸まってしまった。 その後、動物病院から訃報が届いたのは、私が帰宅してから、2時間後であった。 1年余り頑張った小春だった。 最近この2匹が、私の前にしきりに彷彿するのである。 この2匹が言わんとする意味は、分かるのだが。 「ピート!小春!、もう分かったから、ゆっくりしなさい。」 |