『夢の扉』

2010/09/05

 



私は肉より魚のほうが好きだった。

マグロ、カツオ、ブリ、アジ、サバ、イワシ、ヒラメ、カレイ、タラ、

高級魚のフグ、したい、やりたいの、タイ、ローカルフィッシュのハタハタなど。

私は口から飲み食いできなけなって、12年以上が経つが、

魚を思い浮かべることのほうが多いように思える。

魚のほうがアイテムが豊富だし、調理法もバラエティーに富んでいるように思える。

肉は、牛・豚・鶏、せいぜいマトンくらいだろう。

調理方法も限定されている。

しかし、「サーロインステーキ」には、マグロもカツオも、

魚が寄ってたかっても、その存在感には勝てない。

そういうことは、人間の世界にも言えるだろう。

圧倒的な存在感で、他の人達を威圧する。

牛肉には、そんな魅力もある。

魚にはない魅力である。

もし、夢の扉が開いた時には「中トロの刺身」と

「サーロインステーキ」を食してみたいものである。

平成3年の6月頃と思うが、苗場スキー場に見納めに行ったことがあった。

もうスキーはできないと思ったからである。

今思えば、感傷的になるが、

当時はその行為を冷静に、客観的に見られたように思う。

もし、「夢の扉」が開いたら、妙高高原にでも行って、

そのスキー場の頂きに立って、神に感謝の祈りを捧げてから、滑り降りたいものだ。

私は、この20年で、いろいろな事を、いろいろな物を、失い諦めてきたが、

今「夢の扉」が開いたら、一番したいことは、

小さな山へお弁当を持ってハイキングに行きたい。

そして、動くようになった手足で、しっかり大地を踏みしめたいし、

自分の手足を確かめたいし、味わいたいものだ。

そして自分の口で、食べ物を味わいたい。

その時は、感涙して食べられないかも。

ALSを発病したころは、着実に失われていく手足の筋肉が、

恐怖であり、悲観のもとであったが、目下のところは、

口が聞けないことが悩みのタネであり、ストレスの要因になっている。

健康な時は、無口よりに近いほうであった。

もし「夢の扉」が開いたら、誰彼構わず「おしゃべり」を楽しみたいものである。

その時は、「饒舌」になっていることであろう。

しかし、現実には「夢の扉」は開かれることはなく、

ALS生活で生を全うするであろう。

しかし、一度は「夢の扉」が開かれることを仮想してみたかった。

「鉄の扉」は、なかなかタイトだなあ。