『黄昏に微笑んで』

2008/07/25

 



大学時代よりの親友のAさんは、趣味で、小さな農園を営んでいます。

大学時代、私達は、勉強は、ほどほどにして、

専ら、課外活動に専念していたものでした。

彼の農園は、まだ、武蔵野の面影が残る田園地帯にありました。

東京から車で2時間ほどの所にありました。

彼の家の近くになると、車の窓を全開にします。

空気が東京と違うのは、肌で実感できるのです。

爽やかで、目に優しいのです。

昨年は、愛犬を連れて行った所、農園に着くや、否や

愛犬は、農園を狂ったように走り回ったのです。

動物にとって、いかに自然が不可欠な要素かを、思い知らされたのです。

人間にとっても、自然は不可欠に違いないが、人間は防衛本能が働く為に、

それほどのダメージは受けないですむ。

しかし、あまり防衛本能を使いすぎると、

私のように難病にかかる可能性が生まれる事になる。

彼の農園は、トマト、キューリ、ナスなどの夏野菜を始め、

ブルーベリーやスイカ、柿などの果物を育てています。

およそ、30種類はあるだろうと思われます。

素人の私にでも、手間が大変であろうと、推測できます。

彼の優しい性格と根気強さの、たまものでありましょう。

数年前に、農園にお招き頂いてからは、農園にお邪魔する事が、

我が家の夏の恒例行事になったのです。

今年も、お招きのメールをいただきました。

今年は、妻と末の娘とお邪魔する事にしました。

今年は、末の娘が20才になると、彼に伝えたら、酒宴を開いて下さるとの事でした。

そして、「神楽坂の綺麗所をお招きしようと考えております」との事でした。

私は、冗談のつもりで

「武士の情け、妻と娘に内緒で、その綺麗所と一戦を交えたいので、別の間を用意して下されば」と。

酒宴は、寿司懐石と彼の農園で採れた夏野菜のサラダを、ご馳走になったのです。

中でも、自家製の梅ドレッシングは、ピカ1で、冷酒にピッタリでした。

酔いがまわった所で、彼と私は、別の間に。真夏の暑い日でした。

1時間ほどして、足元がおぼつかない私達は、再び、宴席に戻りました。

娘は、私の顔を見て、

「お父様、口の周りを毛だらけにして、どうなさったんですの?」

妻は、「大方、神楽坂産のあわびでも食べ過ぎだのでしょっ!」

娘「えっ、神楽坂であわびが採れるんですの?」

(でも、彼女には,2年越しの恋人が居ることを,私は知りませんでした。)

私「………」

この光景を静観していた彼の唇は「紅しょうが?」を食べ過ぎて、

真っ赤に腫れ上がっていたのです。

私は、バツの悪さから、廊下に出ました。

黄昏時になり、黄色い太陽は、既に傾き始めていました。

私は、ぼんやり、農園をみつめていたら、様々な事がよみがえり、

不覚にも、涙ぐんでいました。

背後からは、妻達の談笑する声が聞こえていました。

やがて、いつの間にか、私は、微笑んでいました。

でも、何故、微笑んだのか、私にもよくわからなかったのです。