2006/10/22


平成九年に胃ろう手術をした。

以来およそ十年、口から食物を一切、食していない。

総合栄養剤のリキッドだけで生きてきた。

我ながら、自らの精神力と体力を自画自賛してしまうが、

それにも増して、その栄養剤の驚異的な

実力に敬服してしまうのである。

しかしながら、歯と顎と食道は一切使っていないので、

その劣化は相当なものであろう。

自覚症状はないものの、いつかその弊害に悩む時が来るであろう。

手術後は、あれも食べたい、これも食べたいと

狂おしいほどの欲求や欲望に自らの品性を疑うほどであった。

欲とは、こういうものかと痛感したのであった。

最近は、枯渇した欲望はないが、穏やかながら、その欲望は消えていない。

口から食べることはできないが、その代償として、

目で消化するという代償行為を会得した。

目で味わい、目で消化するのである。

何とも滑稽な話ではあるが、十年も食していないと、そうなるのである。

人間の生に対する執着であろうか。

本能のメカニズムは、本人が意識する、しないにかかわらず、

作用するものであろう。

人間は、そう簡単には、死なないし、死ねないものである。

ともあれ、よく十年も生きてきたなと思うのである。

現世では、旨い肴で、旨い酒を飲むという願望は叶えられそうにないが、

来世では、思い切り乱暴に痛飲したいものである。

ところで、来世では、誰と高歌放吟、痛飲しているだろうか、

とも思うのである。

何だかそんなことを思っていたら、気が楽になるから不思議である。

わがALS人生に悔い無し、とは思わないが、そこそこかなと思うのである。