2005/11/15

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高校時代、「喧嘩 次郎」というあだ名の友達がいた。

本当に喧嘩ばっかりしていたのである。

売られた喧嘩(後に、彼に喧嘩を売る奴はいなくなったが)はもちろん

むしろ、彼から売るほうが多かったのだから始末が悪い。

私の記憶では、彼は負けたことがなかった。

それでも彼はクラスで人気者ではあった。

背は小さく、ずんぐりむっくりで、首がなく

赤ら顔で、目が飛び出ていて、

いかにも血圧が高そうな顔である。

彼はよく、からかわれていたが、

その度がすぎると、彼の表情が一変する。

「おめえにそんなこと言われる筋合いは、ねぇべな!」と言って、

からかった本人に飛びかかって、ボコボコにしてしまうのである。

こうなったら最後、私が止めに入っても聞く耳を持たない。

「うっせぇ、おめぇはすっこんでろ!」

彼は埼玉の出身だが、頑固な程、なまりが強い。

普段はひょうきんで、気さくな彼なのだが。

高校一年の夏前頃であったであろうか。

柔道の授業であった。

その日はたまたま、代勤の教員がきたときであった。

柔道の教員らしく、いかにもがっちりとした体格であった。

小鼻をふくらませながら、技の説明をして

「誰か技の見本を見せるからちょっと前に出てくれ。」

しばし、間があったものの、案の定、

「二郎、やれよ」とはやしたてられた。

こんな時は、いつもよりさらに首を引っ込めながら、

照れ笑いを浮べて前に出る。

その教員は彼が前に出ると、

彼の柔道着の襟を強く握り締めると、二郎を見事に投げ飛ばした。

無防備な彼も面を食らったようであった。

照れ笑いをしていた二郎であったが、

私とラグビー部のKは、お互いの顔を見合わせていやな予兆を感じていた。

その教員は二郎の襟をつかんだまま、得意満面な顔つきで、技の説明をしていた。

私とKはいつ二郎が、豹変するかと息をのんで見つめていた。

二度目も二郎はあっけなく、見事に投げ飛ばされた。

が、今度は二郎に照れ笑いはなかった。

顔が青白く一変したのである。

この時から、クラスの皆も、息を飲み始めた。

教員が次の技の為に、二郎に背中を向けた時であった。

二郎は教員の後ろから、もの凄い勢いで飛びかかり、

教員の首に腕を回し締め始めた。

二郎の得意技である。

教員は驚きの表情のままに、難なく後ろに倒された。

私とKは目の前で繰り広げられているあまりの凄まじい、

リアルタイムの行状に、一瞬身動きがとれなかったのだが。

二郎は私達が止めに入るまで、意のままになぐり続けたのである。

これが、彼の「喧嘩 二郎」としての、公式なデビュー戦であった。

彼とは卒業後二度程会ったが、以来三十年以上も再会していない。

中道保守の私の性格からは、異色の友人であったが、

再会したい友人の一人である。

彼が、今の私をみたら、背中を震わせて号泣するに違いないのだが。